絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
「マティアス様が結婚を望んでおられないのは、これまで散々断られて十分身に染みてわかっています。でも私も、それなりの覚悟を持って押しかけてきたんです。帰るつもりはありません。あの方に認めてもらえるよう、努力します。だからダニエル、あなたには私を信じて味方になってほしい。――お願いいたします」
そしてフランチェスカは、深々と頭を下げた。
その瞬間、彼は少し驚いたように眼鏡の奥の目を見開いた。
それもそうだろう。貴族は使用人に頭を下げたりしない。
だがフランチェスカは普通の貴族令嬢ではない。幼いころから世界中の本を読みさまざまな価値観に触れ、それを認める家族と共に過ごし、大事なのは身分ではなく、その人がどう生きたかであると、根っこに染みついている。
身分がどうあれ、お願いする側が誠意を見せないで人の心を動かせるはずがない。
「――そうですか」
フランチェスカの答えを聞いて、ダニエルはほんの少し表情を緩めた。
それから数秒、彼は視線をさまよわせた後、
「畏まりました、フランチェスカ様。お手伝いいたしましょう」
思い切ったように、はっきりと言い放った。
「ダニエル!」
フランチェスカの顔がぱーっと明るくなる。
ダニエルはどういたしまて、と言わんばかりに軽く肩をすくめる。
「本音を言えば、周りから『結婚しろ』と言われても、忙しさを理由に断っていた旦那様なので、今回の結婚は『勿怪の幸い』だと思っていたのです。今後のことはお任せください」
そしてダニエルは胸に手を当てて一礼し、それから部屋を出ていく。
黙って背後に立っていたアンヌが、どこか疑わしい顔でフランチェスカの顔を覗き込んできた。
「あの人、味方になってくれますかね? 結構強烈でしたよね。とても貴族に使える側の人間には見えなかったんですけど」
自分のことを棚に上げて、アンヌが眉を顰める。
「そうなってくれればいいなと思ってるわ。だってすごく優秀でしょう」
「寝込んでおられたのにそんなことがわかるんですか?」
「三日間寝ていても十分把握できたわ」
そしてフランチェスカは椅子からぐるりと、フランチェスカに与えられた部屋を見回す。