絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
「お嬢様……本当に、本当に、ほんと~~~にっ、美しいですっ……!」

 顔の前で両手を合わせたアンナが、花嫁衣装に身を包んだフランチェスカを見て、祈るように目を潤ませる。

「ありがとう、アンナ。おばあ様のドレスのおかげね」

 フランチェスカは苦笑して鏡の中の自分を見つめた。

 今朝は夜が明ける頃に起床し、湯船に漬かった後にたっぷりのマッサージを受けた。普段は化粧などしないが、ダニエルが用意してくれた化粧師や髪結いたちが、フランチェスカをこれ以上なく美しく飾ってくれた。我ながら本当によく化けたものだと思う。
 かつて祖母と母が身に着けた花嫁衣装は、のべ二百人のお針子が手縫いしたと言われている、最高級のエンパイヤドレスである。
 首や鎖骨、肩や背中はすべて手編みのレースで覆われ、ビスチェには星屑のようにダイヤモンドが縫い付けられており、長い裾のロングトレーンにはアルテリア王国の国章である百合の花をかたどったレースがたっぷりの銀糸で刺繍されている。

 いつもは下ろして自由になびかせているフランチェスカの金の髪は、複雑な形に編み込まれており、頭にはフランチェスカの瞳と同じ、目が覚めるようなブルーサファイヤがはめ込まれたティアラとヴェールが飾られていた。

「いいえっ、これはお嬢様の手柄ですっ。お嬢様は本当にきれいですっ!」

 アンナはキリッとした表情でそう言い放つと、目の端に浮かんだ涙をさっとハンカチでぬぐって「侯爵様たちの様子を伺ってきますね!」と控室を出て行った。

(私、いよいよ結婚するのね……)

 フランチェスカがマティアスの屋敷に入ってから二週間。
『任せてください』と言ったダニエルの言葉に嘘はなく、とんとん拍子で準備が進み今日フランチェスカはマティアスの妻になる。
 アルテリア王国からは両親と兄が昨晩到着しており、結婚式に参加してくれることになっていた。
 ちなみに式はシドニア領内の教会で行われるのだが、急に決まったことにもかかわわらず、領民たちは大盛り上がりで、すでに町中がお祭り騒ぎだった。

(耳を澄ませば、太鼓や笛の音が聴こえてくるわ)
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