絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
「だから、王都に返すのがもったいないって思えるような働きをするのよ。そうすればマティアス様も、私を妻として認めて、手放すのを考え直してくれるかもっ」

 そうはっきり口にすると、本当にそうするしかない気がしてきた。

「本気ですか?」

 アンナが眉をひそめ、茫然とした顔になる。

「ええ」

 フランチェスカはしっかりとうなずいた。
 来るなと言われたのを無視して無理を通してきたのだから、疎まれても仕方ないと思っていたが、マティアスはフランチェスカの想像以上に善良な男だった。
『白い結婚』は意地悪で言っているわけでも何でもない。フランチェスカのためを思って言っているのだ。
 それをひっくり返そうと言うのだから、やれることはなんでもやってみるしかない。

「そうと決まれば領内を見回りに行きましょう」
「はい?」
「まずはこのシドニア領がどんなところなのか調べなきゃ。お忍びで買い物に行くとかなんとか言って、ダニエルに外出することを伝えてちょうだい」
「わ、わかりました」

 アンナはたじたじになりながら「王都じゃほぼ引きこもりだったのに……」と首をひねりつつ部屋を出ていく。
 アンナを見送ったフランチェスカは、紅茶のカップを口元に運びながらそんな自分をどこか他人事のように、不思議に感じていた。

(確かに我ながら、必死だわ)

 王都にいた頃のフランチェスカは、本を読む、小説を書く以外のことはどうでもよく、外の世界とはほぼ隔絶されたまま生きていたし、そんな自分に不満もなかった。

 だが今はどうだ。マティアスに『白い結婚』を言い渡されてから、自分を認めてもらいたいと思い始めている。

(追い返されては困るからっていう、それだけなんだけど)

 そうだ。気楽な田舎暮らしで執筆生活を楽しむために頑張ろうと思っているだけだ。
 他に意味などない、はずだった――。

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