絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 慌ただしく身支度を整えたフランチェスカは、アンナに手伝ってもらいながら、若草色の筒袖の簡素なつくりのドレスに着替える。たっぷりしたレースも過剰なフリルもほぼついていない、庶民の女性の外出着だ。黄金の髪は後ろでまとめ、リボンで結んで帽子をかぶった。

「これなら目立たないわね」

 姿見の前でくるりと回る。我ながらどこぞの町娘のように見えて、ワクワクした。

「そうですね。お顔を見られなければ、普通の商家のお嬢さんのように見えなくもないです。大丈夫かと」

 アンナもメイド服から外出着に着替えて玄関へと向かうと、同じく軍服から普段着に着替えたルイスが待っていた。
 彼に手伝ってもらいながらホロ付きの馬車に乗り込み、向かい合って腰を下ろす。

「さて、お買い物ならまずは町の中心地ですかね。若い娘さんが好きそうなアクセサリーだったり、ドレスだったりも取り扱っていますよ。王都でお求めになっていたような高級路線のものを、ということでしたら、この町の商会を取り仕切っているケトー商会にお連れします。ダニエルの息子夫婦が運営しているんです。少々時間はかかりますが、いい職人を取り揃えていますので、新しいドレスだってアクセサリーだって、奥様にお似合いのものを用意することができますよ」

 滑らかな口調のルイスの様子からして、ダニエルが彼を護衛に選んだ理由もわかる。
 きっと彼はいわゆる都会的な男なのだろう。女性相手ならこのくらいの優男のほうが身構えなくていい。

「それも悪くないけれど、シドニアのことをもっとたくさん知りたいの。だからあなたがシドニアらしいと思うところに連れて行ってくださらない?」
「え?」

 フランチェスカの言葉を聞いて、ルイスは驚いたように目を丸くしたのだった。

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