絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
窓の外はすでに真っ暗で、煌々と月が上っている。
静かな執務室ではただ薪の燃える音が鳴っているだけ。机の上には領民たちから寄せられた嘆願書や、決裁するべき書類が積み上げられていて、マティアスはそれを一枚ずつ確認しながら、ああでもないこうでもないと頭をひねっていた。
だがふとした拍子に、今朝ソファーに押し倒してしまったフランチェスカの姿が浮かんで、なんとも形容しがたい、妖しい気持ちが込み上げてくる。
将来のために『白い結婚でいよう』と提案したまではよかったが、フランチェスカはマティアスの話を聞いても、あまり納得していないようだった。
『せめてフランチェスカとお呼びください。仮に表向きだとしても私はあなたの妻になったのですから』
そう言って目を潤ませるフランチェスカは非常に愛らしかった。
あまりにもかわいいことを言うので、勘違いして思わず抱きしめたくなってしまったのを、必死にこらえた。とはいえ、額にキスをしてしまったので言い訳はできないのだが。
「――」
マティアスは無言で引き出しからポポルファミリーのウサギちゃんを取り出し、じっと眺める。
いつもなら『かわいい……』だけで済むのだが、今日は手の中にあるかわいいお人形とフランチェスカが重なって、なんだかいけないことをしているような気分になる。
(いや、俺は悪くないぞ! あの人が可憐すぎるんだ……!)
いい年してこんな言い訳をしたくないが、きれいでかわいくて繊細な女性を嫌いな男がいるだろうか。もちろん人の趣味は多様なので、美しいものにまったく興味がわかないという男がいるかもしれないが、大半の男は好ましく思うものだろう。
そして可愛いものが大好きなマティアスも、当然『好き』だと感じてしまう。
(だがしかし、これは淫らな目で見ているのではなく、子猫とか子犬とか小鳥とか、そういう愛らしい生き物をいいな、かわいいな、と思うような目線であって、決して人に言えないような劣情ではないっ!)
この問答を朝から朝から百回は繰り返している気がする。
静かな執務室ではただ薪の燃える音が鳴っているだけ。机の上には領民たちから寄せられた嘆願書や、決裁するべき書類が積み上げられていて、マティアスはそれを一枚ずつ確認しながら、ああでもないこうでもないと頭をひねっていた。
だがふとした拍子に、今朝ソファーに押し倒してしまったフランチェスカの姿が浮かんで、なんとも形容しがたい、妖しい気持ちが込み上げてくる。
将来のために『白い結婚でいよう』と提案したまではよかったが、フランチェスカはマティアスの話を聞いても、あまり納得していないようだった。
『せめてフランチェスカとお呼びください。仮に表向きだとしても私はあなたの妻になったのですから』
そう言って目を潤ませるフランチェスカは非常に愛らしかった。
あまりにもかわいいことを言うので、勘違いして思わず抱きしめたくなってしまったのを、必死にこらえた。とはいえ、額にキスをしてしまったので言い訳はできないのだが。
「――」
マティアスは無言で引き出しからポポルファミリーのウサギちゃんを取り出し、じっと眺める。
いつもなら『かわいい……』だけで済むのだが、今日は手の中にあるかわいいお人形とフランチェスカが重なって、なんだかいけないことをしているような気分になる。
(いや、俺は悪くないぞ! あの人が可憐すぎるんだ……!)
いい年してこんな言い訳をしたくないが、きれいでかわいくて繊細な女性を嫌いな男がいるだろうか。もちろん人の趣味は多様なので、美しいものにまったく興味がわかないという男がいるかもしれないが、大半の男は好ましく思うものだろう。
そして可愛いものが大好きなマティアスも、当然『好き』だと感じてしまう。
(だがしかし、これは淫らな目で見ているのではなく、子猫とか子犬とか小鳥とか、そういう愛らしい生き物をいいな、かわいいな、と思うような目線であって、決して人に言えないような劣情ではないっ!)
この問答を朝から朝から百回は繰り返している気がする。