絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
マティアスは両手で包み込んだポポルファミリーの人形を祈るような思いで口元に運ぶ。そう、これは毎日疲れをとってもらっている、白猫ちゃんへの思いと似たようなものだ。
だからこれは問題ない、大丈夫だと己に必死に言い聞かせたが、
「大将、おつかれ~!」
ノックもなしに、いつもの気安い調子で副官のルイスが執務室に入ってきて、あたふたとマティアスは手に持っていた人形を、引き出しの中に押し込んでいた。
「――なんだ急に」
見られてはないと思うがやはり平静を保つのは厳しい。眉間に皺を寄せて尋ねると、ルイスは大きな紙袋を抱えたままマティアスの前に立ち、中から林檎を取り出して差し出す。
「はいこれ差し入れ」
「ん? ああ……助かる」
とりあえず受け取り、手持無沙汰でかじりつくとみずみずしい香りと果汁が口いっぱいに広がる。今日は書類仕事が溜まっていて、一日中机にかじりついていたので、酸味が体に染みた。
「大将、ちゃんとメシ食ってるか? 食べなきゃだめだぜ」
「わかってる」
ルイスは十年以上の付き合いがある副官だ。今のルイスは中将だが、そうなる前から親分的な意味でマティアスのことを『大将』と呼ぶ。昔は紛らわしいと思って訂正していたが、もう慣れてしまった。
(悪気はないんだが、軽いのが玉に瑕だな)
ホッとしつつ林檎を咀嚼していると、
「今日さぁ、奥様と一緒に街歩きしたんだ」
「ゲホッ!」
ルイスから爆弾を投げ込まれて、口の中の林檎を噴き出しそうになってしまった。
「ちょっと待て。どうしてお前が彼女と……!」
唇を指先でぬぐいながら尋ねると、ルイスは執務机に腰掛けて、肩越しに振り返りニヤリと笑う。
「ダニエルさんから、奥方様が買い物に出かけるから警護をして欲しいって頼まれてさぁ。結局買い物はそこそこで、シドニアっぽいところに連れて行って欲しいって言われたんだけど。まぁ楽しかったよ」
「楽しかったって……」
マティアスは腹心である部下のニヤケ顔を見て、無性にモヤモヤしてしまった。
だからこれは問題ない、大丈夫だと己に必死に言い聞かせたが、
「大将、おつかれ~!」
ノックもなしに、いつもの気安い調子で副官のルイスが執務室に入ってきて、あたふたとマティアスは手に持っていた人形を、引き出しの中に押し込んでいた。
「――なんだ急に」
見られてはないと思うがやはり平静を保つのは厳しい。眉間に皺を寄せて尋ねると、ルイスは大きな紙袋を抱えたままマティアスの前に立ち、中から林檎を取り出して差し出す。
「はいこれ差し入れ」
「ん? ああ……助かる」
とりあえず受け取り、手持無沙汰でかじりつくとみずみずしい香りと果汁が口いっぱいに広がる。今日は書類仕事が溜まっていて、一日中机にかじりついていたので、酸味が体に染みた。
「大将、ちゃんとメシ食ってるか? 食べなきゃだめだぜ」
「わかってる」
ルイスは十年以上の付き合いがある副官だ。今のルイスは中将だが、そうなる前から親分的な意味でマティアスのことを『大将』と呼ぶ。昔は紛らわしいと思って訂正していたが、もう慣れてしまった。
(悪気はないんだが、軽いのが玉に瑕だな)
ホッとしつつ林檎を咀嚼していると、
「今日さぁ、奥様と一緒に街歩きしたんだ」
「ゲホッ!」
ルイスから爆弾を投げ込まれて、口の中の林檎を噴き出しそうになってしまった。
「ちょっと待て。どうしてお前が彼女と……!」
唇を指先でぬぐいながら尋ねると、ルイスは執務机に腰掛けて、肩越しに振り返りニヤリと笑う。
「ダニエルさんから、奥方様が買い物に出かけるから警護をして欲しいって頼まれてさぁ。結局買い物はそこそこで、シドニアっぽいところに連れて行って欲しいって言われたんだけど。まぁ楽しかったよ」
「楽しかったって……」
マティアスは腹心である部下のニヤケ顔を見て、無性にモヤモヤしてしまった。