絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
フランチェスカの母方の祖母はアルテリア王国の王女で、非常に身分の高い女性だった。二年前に亡くなってしまったが、それまで孫であるフランチェスカと兄をとても可愛がってくれた。
特に生まれつき体が弱く、十歳まで生きられないだろうと医者に宣言されていたフランチェスカのことは、文字通り目に入れても痛くないと言わんばかりに溺愛し、
『物語の中でなら、フランチェスカはどこにだって行けるし、何にだってなれるのですよ』
と、床が見えなくなるくらい沢山の書物を与えてくれた人だった。
さらに王国のみならず、世界中の本を読めるようになりたいと願った孫娘のために、優秀な家庭教師をつけ、読み書きを学ばせてくれた。
おかげでフランチェスカはベッドの中で一日過ごしていても少しも寂しくなかったし、社交界にデビューできなくても、自分がかわいそうだとかみじめだとか、そんな気持ちになったことは一度もなかった。ある意味幸福な少女時代を過ごせたのだ。
だがフランチェスカは死ななかった。
寿命だと言われた十歳を数年過ぎたあたりから、周囲は『あれ?』と思ったようだが、なんともうすぐ十八歳になる。周囲が慌てて結婚させようと婚約者探しに躍起になり始めて、一年近くが経っていた。
ヴェルベック家は王家とも縁が近い由緒正しき血筋なので、相手には困らない。両親は条件に合う男たちを次々と選び、フランチェスカに『お前の夫としてどうか』と持ち掛けてきた。
だがフランチェスカは頑として首を縦に振らなかった。
相手が誰であっても、とにかく貴族らしい結婚などしたくないのである。
読書を愛し、ひとりの時間をなによりも大事に思っているフランチェスカが、今更夫と家のために生きろと言われても、受け入れられるはずがない。
この一年は祖母の喪に服しているということで婚約も結婚も避けていたのだが、さすがに乙女の花盛り。貴族の義務である結婚イベントからはこれ以上逃げられそうもない。