絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
「結婚なんか、したくないな~……」

 ぼーっとしつつまた紅茶のお代わりを口に運んだところで、
「姫様は結婚したくないんじゃなくて、作家を辞めざるを得なくなるのが、おいやなんでしょう?」
 と、アンナがはっきりと口にする。

「ちょっと、アンナッ」

 フランチェスカは慌てて人差し指を自分の唇に押し当て、焦りつつあたりをぐるりと見回した。

「大丈夫ですよ、お嬢様。誰も聞いてませんって」

 アンナはそう言って軽く肩をすくめると、ちょっといたずらっ子のように微笑み、フランチェスカの顔を覗き込む。

「お嬢様が王都でも噂の覆面作家、BBこと『ブルーノ・バルバナス』だってことは、あたしと兄しか知らないことですもんねっ」
「もう……」

 フランチェスカは苦笑し、それから両手で顔を包み込むように肘をつき、大きくため息をついた。

「そうね。あなたの言う通りなのかも。私、結婚がいやっていうよりも、執筆を辞めなくちゃいけないのが嫌なんだわ」

 フランチェスカは物心ついた時から本を与えられ、ベッドの中で十年以上本を読んで過ごした。貴族令嬢たちが社交界でデビューして結婚相手を探すようになっても、一切関わらずに本を読んでいた。
 そして気が付けば、誰に教えられたわけでもなく、自分で物語を書くようになっていたのだ。
 読者はただひとり、三つ年上のアンナだけ。毎日少しずつ物語を書き、アンナに読ませるのがフランチェスカの娯楽になっていた。
 だが三年ほど前、その小説が出版社で働いているアンナの兄の目に留まり、たまたま原稿を落としてしまった作家の代わりに新聞に掲載され、大好評を博してしまった。

『お嬢様のお話は面白いから当然です』
 と、喜ぶアンナに求められるがまま次々と原稿を書き上げ、気が付けばあれよあれよという間に連載は続き、本を刷ればベストセラーを連発する人気作家になっていた。

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