絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 それからフランチェスカは、マティアスの承認も得たことで、フランチェスカは水を得た魚のように動き回った。
 企画書の作成から予算の見積もり等々、舞台に関しては王都でフランチェスカの著作を独占販売しているオムニス出版に特別協賛を正式に依頼した。ブルーノ・バルバナス初の舞台脚本ということで、今後書籍として出版する予定である。
 なにもかもが順調に思えたが、すぐに問題が勃発した。
 主役を演じる俳優がいないのである。


 ケトー商会の応接間にはフランチェスカと仕事帰りのマティアス、ルイス、それにダニエルの四人が集まって額を突き合わせていた。

「大問題が発生しています。マティアス様にぴったりの役者がいないんです」

 本番まであと二か月、長いようで短い。
 お芝居をやろうと盛り上がったのはいいが、なんと一か月経っても劇団が決まらない。脚本は先日書き上げたのに、一刻も早く稽古に入りたいがそれどころではない。

「――」

 マティアスは無言で「そんなこと?」という顔をしたが、フランチェスカはそれを無視してダニエルとルイスに熱っぽく語りかけた。

「となると、芝居は中止?」

 ルイスが首をかしげる。

「いいえ、中止にはできません。お芝居は花祭りの目玉ですから」

 フランチェスカはぎゅっと目元に皺を寄せて、ダニエルとルイスの顔を見比べた。

「とはいえ、そろそろ決めないとさすがに困るんじゃないか?」

 マティアスの言うとおり、花祭りまで残り二か月。いくら短いお話とはいえ、主演を決めないままでは稽古も進められない。

「そうなんですけど……。主演に関しては、絶対に、絶対にっ、妥協したくないんですっ」

 つい先日刷り上がった脚本を握り締めて、唇を引き結ぶ。
 では王都だけではなく、他国から評判の劇団を招集してはどうか、とか。いっそ紙芝居にしてはどうだだの、議論だけが白熱する中、それまで黙っていたダニエルが、ふと思いついたように口を開いた。

「いっそのこと、旦那様ご本人が演じてみては?」
「――は?」

 マティアスがきょとんとした顔になる。ルイスもフランチェスカも同じだった。唖然としたところでさらにダニエルが言葉を続けた。
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