絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
「脚本を拝見しましたが、旦那様の役は物言わぬ態度が原因で周囲に誤解を生むという役柄なので、それほどセリフの数は多くないですよね」
「ちょっ……ちょっと待てダニエル。俺は役者の真似なんかできるはずないだろう……!」

 慌てた様子で、マティアスが椅子をがたんと鳴らし立ち上がったが、フランチェスカは声をあげていた。

「それですわ! すごい、その案最高です!!!」

 そうだ。本人に似せた役者ではなく本人が演じればいいのだ。
 思わず絶叫してしまったが許してほしい。フランチェスカは椅子から立ち上がり、そのままマティアスに駆け寄り、彼の大きな手をぎゅっと手をにぎった。

「ぜひぜひそうしましょう!」
「いや、さすがに役者の真似事なんて絶対に無理だ!」

 珍しく激しく動揺した様子で、マティアスはぶるぶると首を振る。
 普段冷静な彼の慌てた姿は珍しいが、それどころではない。
 本人が演じるというアイデアを聞いてしまった以上、それ以外の選択肢はフランチェスカの脳内から吹っ飛んでいた。

「そんなことを言わずになんとか! マティアス様以外にマティアス様を表現できる人はいませんっ!」
「フランチェスカ、無茶を言わないでくださいっ! 素人の俺には絶対に、絶対に無理に決まっているっ!」

 頑なに拒絶するマティアスだが、黙って様子を見ていたルイスが、いきなりひらめいたと言わんばかりにポンと拳をたたく。

「だったら奥方様も出演されたらどうです? 夫婦ふたりでなら大将もやれるでしょ?」
「えっ? 私が? なんで?」

 いきなり自分におはちが回ってきて、フランチェスカはきょとんと眼を丸くした。

「奥方様が男装して、ジョエル様を演じるんです。奥様が男装すればまささに花のような美青年になるでしょうし。なにより領主夫婦が舞台を上映するとなれば、そりゃあ盛り上がりますよ。絶対に成功間違いなしです!」
「え、ええっ、で……でも……」

 フランチェスカはいきなりの展開に、言葉を失ってしまった。
 さっきまでマティアスに舞台に立ってほしいと思っていたはずなのに、自分に矛先が向けられると一気に怖気づいてしまった。

(私がマティアス様と一緒に、舞台に立つ……?)
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