絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
 黙り込んだフランチェスカを見て、今度はマティアスがルイスに対して目をむく。

「お前、貴族が役者の真似事なんてするわけないだろうが!」

 それを聞いたフランチェスカは慌てて首を振った。

「それは間違いです、マティアス様!」
「は?」
「観劇は王族の娯楽のひとつですから。私もおばあ様に誘われて、何度か王宮で兄様とお芝居を披露したことがあるんです」

 身内の子供たちを着飾らせ、古典やおとぎ話を演じさせるのは、気軽に町に出られない王族の楽しみとしてはごく普通のことだった。

「見るだけではなくて、おばあ様や王様、大臣まで役者をしてお芝居を楽しまれることもしょっちゅうでした」
「――マジか」

 マティアスは嘘だろうと言う顔でぽつりとつぶやき、それから目頭を指でぎゅっとつまんでうつむいてしまった。強張った肩のラインから彼の不安が伝わってくるようだ。

(そりゃぁ、私だって不安だけど……)

 だがふたりならやり遂げられるのではないだろうか。そしてふたりで課題を乗り越えることによって、絆が結ばれるかもしれない。

(マティアス様が、私を好ましい人間だと思ってくれるかも!)

 そう思うと、もうフランチェスカは止まれない。
 不安よりも先に、なんとかなるだろうという謎の自信が込み上げてきた。

「マティアス様、不安なのはわかります。私だって不安です……。でも、ふたりで頑張ればできるんじゃないでしょうか。その、マティアス様の普段のお仕事の邪魔にならないよう、私もいろいろ気を配れますので、やりましょう……!」

 ぐっとこぶしをにぎりマティアスに詰め寄った。

「これも領民の笑顔のためだと思って!」

 その瞬間、彼はぐっと詰めるように息をのむ。
 我ながら少しズルいと思ったが、マティアスは本当にこの言葉に弱い。
 普段プライベートもすべて投げ出して仕事をしている彼にとって『領民のため』というカードは最終兵器に等しいのだ。

「――わかった。あなたがそこまで言うのなら」

 マティアスは何度も深いため息をついたが、最終的にOKしてくれた。
 そうしてフランチェスカは、なんとマティアスと夫婦で花祭りの舞台に立つことになったのだった。
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