絶対に結婚したくない令嬢、辺境のケダモノと呼ばれる将軍閣下の押しかけ妻になる
脚本に関しては私が責任をもって書き直しています。
お芝居とはいえ、私の夫であるマティアス様をモデルにするんですから手を抜くつもりは一切ありません。
その代わり『シドニア花祭り』への協賛、よろしくお願いいたします。
BB
追伸 王都で宣伝をばんばん打ってくださいね!
アンナにチェックさせますからね!
それと――~……
追伸の途中で手紙の文字はぐにゃぐにゃしたミミズがはったような字で止まっている。どうやらここで力尽きてしまったらしい。
「BB……?」
マティアスは署名を見て何度も目をぱちくりさせる。
『私の夫』『マティアス』
書いてある文字を何度も読みながら、頭の中であれこれと考え、そしてひとつの結論に至った。
「もしかして、フランチェスカがBB……なのか?」
状況はその可能性をはっきりと告げているが、同時にマティアスが知っている世間の常識が、それはいくらなんでも論理が飛躍していると横やりを入れてくる。
そう、作家というのは男の仕事なのだ。
女性がやるものではないし、なおかつ侯爵令嬢が作家であるなんてありえない。
マティアスの知っている常識が頭の中で叫ぶのだが、同時に貴族らしくないフランチェスカのこれまでの行動を考えると、ありうるのではと思ってしまう。
「だがしかし……」
手紙を持ったまま凍り付いていると、「う……」と、背後でフランチェスカがうめき声をあげるのが聞こえた。
「っ……!」
慌てて手紙を戻し、書類をまとめて机の上に置きフランチェスカの枕元に戻る。
「大丈夫ですか?」
顔を覗き込むと、相変わらず両の目は硬く閉じられたままだった。目が覚めたのかとドキドキしたが、そういうわけでもなかったらしい。
しばらくその寝顔を見つめた後、ゆっくりと問いかける。
「君が……BB?」
返事が返ってくるとは思わなかったが、尋ねずにはいられなかった。
普通、貴族令嬢は性別を偽って小説を書いたりしないが、もし彼女がBBだとしたら――?
彼女が身分の釣り合う貴族たちとの縁談を断り、シドニア領まで嫁いできた理由がようやく理解できた気がした。
(そうか……すべては小説を書くためなのか!)