結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「ベル……何、言って」
「本来そんな関係でもないのに、気安く呼ばないで頂けます?」
眉根を寄せて迷惑そうにそう言ったベルは、
「やっとこんな手のかかる面倒な坊ちゃんの世話係から解放されたっていうのに、まだ何か私にご用でもあるのですか?」
冷たく冷えた視線をルキに送る。
そこには恋情も親愛も感じられず、ただ鬱陶しいと言わんばかりだ。
「あなたは……ルキ様を愛していたのではないのですか!?」
言葉を失ったルキの代わりにキッとベルを睨んだエステルが、ベルに詰め寄るように言葉を放つ。
「愛? そんなモノ、契約婚約者にあるわけがないではありませんか。全てお金のためです」
エステルの視線を真っ向から受けたベルは当然、とばかりにそう言い切る。
「いいバイトでしたよ? 綺麗なドレスを着て美味しいものを食べて贅沢三昧。その上充分過ぎるほどの報酬が出る。おかげで独立資金の目処も立ちましたし、いい時期に婚約破棄のお申し出をして頂きありがたい限りです」
ベルはマダム・リリスの高いドレスを見せるように手で軽く持ちそう話す。
「なっ! なんて浅ましいっ。ルキ様は、あなたの事を」
「次期公爵様が私の事をどう話されたのかは存じませんが、お金のため。それが全てです」
ベルはエステルの言葉を遮って、冷たくそういう。
「お金で買えない幸せもあるでしょうが、世の中お金で買える幸せの方が圧倒的に多いのです。お金に苦労した事のない方にはご理解頂けないかもしれませんが」
にこっと笑ったベルは、ルキの顔を見て、
「ごっこ遊びはお終いですが、また人材派遣をご利用されたいときはどうぞお申し付けください。次期公爵様は顔がいいので、まぁ金額次第ですが一晩のお遊びくらいなら付き合って差し上げますよ」
挑発的なアクアマリンの瞳を傷ついたような濃紺の瞳が見つめ返す。
「なんて事をっ。なんて、なんてはしたないっ! 誰か、この女をつまみ出しなさい」
言葉を失くしたルキの隣で燃えるようなガーネットの瞳に怒りを灯した彼女が、握りしめた拳を震えさせながら侮蔑を込めた視線をベルに投げかける。
「ご心配なく、もう出て行きますので。ふふ、運命の彼女に怒られてしまいましたね。というわけで、金輪際ご連絡されないでくださいな。報酬は公爵家からお支払い済みなのでご心配なく。では、ごきげんよう」
ベルは必要事項は述べたとばかりにくるりと背を向け歩き出す。
背筋を伸ばし堂々と去って行くベルの耳にはいくつもの囁きが聞こえる。
『これだから、愛人の子は』
『なんて浅ましい』
『金にがめつい、性格のキツイ女』
『ルキ様が可哀想だわ』
『ああ、でも納得。あんな女が次期公爵夫人になんてなれるわけがないじゃない』
それらを聞きながら、ベルは薄く笑みを浮かべる。
婚約者がいる身でありながら他の女性に目を向けたなど、ルキが悪く言われる言葉は聞こえてこない。
良かった。
ベルは沢山の非難を浴びながら、心の中でそうつぶやく。
ルキの隣に選ばれた相手が、ルキの事を思って怒ってくれる相手で良かった。
ルキが穏やかな顔をして笑いかけられる相手で良かった。
ルキに非のない形で手を離せて良かった。
これで、求められた役割はお終い。
振り返ることなく開いた扉から出て行ったベルは、こうして舞台から退場した。
「本来そんな関係でもないのに、気安く呼ばないで頂けます?」
眉根を寄せて迷惑そうにそう言ったベルは、
「やっとこんな手のかかる面倒な坊ちゃんの世話係から解放されたっていうのに、まだ何か私にご用でもあるのですか?」
冷たく冷えた視線をルキに送る。
そこには恋情も親愛も感じられず、ただ鬱陶しいと言わんばかりだ。
「あなたは……ルキ様を愛していたのではないのですか!?」
言葉を失ったルキの代わりにキッとベルを睨んだエステルが、ベルに詰め寄るように言葉を放つ。
「愛? そんなモノ、契約婚約者にあるわけがないではありませんか。全てお金のためです」
エステルの視線を真っ向から受けたベルは当然、とばかりにそう言い切る。
「いいバイトでしたよ? 綺麗なドレスを着て美味しいものを食べて贅沢三昧。その上充分過ぎるほどの報酬が出る。おかげで独立資金の目処も立ちましたし、いい時期に婚約破棄のお申し出をして頂きありがたい限りです」
ベルはマダム・リリスの高いドレスを見せるように手で軽く持ちそう話す。
「なっ! なんて浅ましいっ。ルキ様は、あなたの事を」
「次期公爵様が私の事をどう話されたのかは存じませんが、お金のため。それが全てです」
ベルはエステルの言葉を遮って、冷たくそういう。
「お金で買えない幸せもあるでしょうが、世の中お金で買える幸せの方が圧倒的に多いのです。お金に苦労した事のない方にはご理解頂けないかもしれませんが」
にこっと笑ったベルは、ルキの顔を見て、
「ごっこ遊びはお終いですが、また人材派遣をご利用されたいときはどうぞお申し付けください。次期公爵様は顔がいいので、まぁ金額次第ですが一晩のお遊びくらいなら付き合って差し上げますよ」
挑発的なアクアマリンの瞳を傷ついたような濃紺の瞳が見つめ返す。
「なんて事をっ。なんて、なんてはしたないっ! 誰か、この女をつまみ出しなさい」
言葉を失くしたルキの隣で燃えるようなガーネットの瞳に怒りを灯した彼女が、握りしめた拳を震えさせながら侮蔑を込めた視線をベルに投げかける。
「ご心配なく、もう出て行きますので。ふふ、運命の彼女に怒られてしまいましたね。というわけで、金輪際ご連絡されないでくださいな。報酬は公爵家からお支払い済みなのでご心配なく。では、ごきげんよう」
ベルは必要事項は述べたとばかりにくるりと背を向け歩き出す。
背筋を伸ばし堂々と去って行くベルの耳にはいくつもの囁きが聞こえる。
『これだから、愛人の子は』
『なんて浅ましい』
『金にがめつい、性格のキツイ女』
『ルキ様が可哀想だわ』
『ああ、でも納得。あんな女が次期公爵夫人になんてなれるわけがないじゃない』
それらを聞きながら、ベルは薄く笑みを浮かべる。
婚約者がいる身でありながら他の女性に目を向けたなど、ルキが悪く言われる言葉は聞こえてこない。
良かった。
ベルは沢山の非難を浴びながら、心の中でそうつぶやく。
ルキの隣に選ばれた相手が、ルキの事を思って怒ってくれる相手で良かった。
ルキが穏やかな顔をして笑いかけられる相手で良かった。
ルキに非のない形で手を離せて良かった。
これで、求められた役割はお終い。
振り返ることなく開いた扉から出て行ったベルは、こうして舞台から退場した。