結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
 ルキからベルととりあえず付き合う事になったと経緯を聞いたレインは固まり、

「…………ベル嬢の思い切りが良過ぎる」

 と感想を述べる。

「なんか、そんな話になったので、一応報告」

 どうしていいかわからない状態から一歩前進というか、と穏やかな表情でルキは語る。

「契約婚約者→期限付き恋人(仮)。それ、むしろ後退してない?」

 これを前進ととるかぁと予想の斜め上の展開にレインは突っ込まずにはいられない。

「いやいやいやいや、前進! 紛う事なく前進だからっ」

 1人で悩む状態から2人で悩む状態になったんだよと主張するルキに、

「2人とも恋愛オンチとかもう迷子確実じゃん」

 辿り着く先が見えないんだけどとレインは肩を震わせて笑う。
 そんな2人のやり取りを見ながら、

「あのぅ、僕なんで呼び出されたんでしょうか?」

 何で恋愛談義聞かされてるの? とハルは控えめに主張する。
 ハルが質問もせず黙々と課題をこなしていくものだから、本日の目的を忘れるところだったと、レインはハルのノートをじっと見て、

「あ、ハル君。そこ意訳間違ってるよ、ここはねぇ、引っかけ問題なんだ」

 専門用語ばっかりだから難しいよねとトンっと間違えを指摘する。

「あ、ハル。ココ文法と綴り違う。あと正式名称はこっち」

 正しく覚えておいた方が良いぞとルキもざっと見て、他は問題ないなと頷く。

「あ、本当だ。ご指摘ありがとうございます……って、コレ受験範囲じゃなくない!?」

 来年のために勉強会をしようと呼び出されて渡された大量の課題。
 外交省を受けると決めた事だし、現役で活躍する2人に勉強を見てもらえるなら心強いなとハルは先月から大人しく従っていたのだが、会う度に難易度が増し続ける課題にさすがにおかしいと気づく。

「えっ? 外交省に採用される前提で1年目の課題やらせてるけど何か問題あった?」

 レインはしれっとそんな事を言い、

「ハル優秀だな。即戦力になれるぞ」 

 今頃気づいたのか? とルキは驚く。

「いや、採用に向けた勉強会って言ったじゃないですか!!」

 何で採用後の勉強させられてるの!? と驚くハルに、

「いや、だって受験範囲もう全部終わったし」

「学科は合格ライン余裕で超えてるから、いいかなって」

 俺ら2人掛かりで教えて不採用っていう選択肢がなかったと当たり前のようにいう先輩達にびっくりするくらいスパルタだと思ったよ! とハルはペンを置いた。

「学科終わったならプレゼンとか面接とか他の対策してくださいよ」

 むしろそっちの方強化して欲しいんですがと主張するハルに、

「採用されたら早々に海外の担当持って欲しいなって」

「とりあえず2ヶ月くらい研修兼ねて海外行って欲しいよね」

 やたらと外国語と最近の社会情勢ばかり詰め込んでいた理由を明かす。

「大丈夫、大丈夫。ルキについて行けたら交渉術は自ずと上がるって」

 死ぬほど大変だけど、とレインは他人事のようにそう言った横で、

「ハル、事前に出してもらった模擬コンペの課題だけど全然ダメ。試験レベルなら問題ないけど、採用後これじゃ通用しない。とりあえず指摘入れといたから、修正案検討してみて」

 ルキはにこやかにダメ出しをする。

「ほぼ全部じゃないですか」

 受け取ったハルは指摘箇所を確認し、

「……僕やっていける自信ないです」

 とりあえず持ち帰らせてくださいと真剣に指摘内容を読み始めた。

「まぁまぁ、できる子にしか厳しくしないって」

 ルキは仕事の鬼だからと優しく宥めるレインの横で、

「騙されるなよハル。レインは優しい顔して俺よりえげつないからな」

 何かあったら俺に相談しなと優しい顔で話す。

「……ルキ様も大概ですよ」

 うーん、これ自信あったんだけどとハルは返却された課題を見ながら外交省で働く厳しさを痛感する。
 修正案を検討するにあたり、不明点を質問して今日の勉強会はお開きとなった。
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