侯爵閣下。私たちの白い結婚には妥協や歩み寄りはいっさいないのですね。それでしたら、あなた同様私も好きなようにさせていただきます
 それなのに、どうやら彼はわたしとの雑談から寄り合わせ、侯爵との関係を推測しているみたい。

 その推測は間違ってはいないけれど、関係のない彼にそんなことを言われる筋合いはないと感じた。

 正直、いまのノーマンの言葉は不愉快だった。

「そんなことはありません。夫は、激務なのです。ですから、なかなかいっしょにすごせる時間がないのです。わたしは、それでも充分満足しています」
「はんっ、どうだか。どうせどこかで浮気でもしているんだろう? 強面で粗暴でデリカシーのない獣みたいな男が、まあまあの器量で若さと明るさだけが取り柄みたいなレディをほったらかしにしているなんてどうかしている。ほんとうに夫婦なんだかね? 政略結婚じゃないのか? 夫婦のふりってやつだ。世間体を整えているだけなんじゃないの?」

 一瞬、「まあまあの器量で若さと明るいだけが取り柄のレディ」、というところが気になった。

 そこはふつう、美しいとか可愛いとかやさしいとか気遣い抜群とかではないの?

 ダメダメ。そこではない。そこではないわ。
< 22 / 68 >

この作品をシェア

pagetop