侯爵閣下。私たちの白い結婚には妥協や歩み寄りはいっさいないのですね。それでしたら、あなた同様私も好きなようにさせていただきます
 わたしは、死んではいない。いまのところは。

 だけど、目を覚まさない。意識は、アールに移っているのだから。ということは、アールは? アールの意識はどこへ?

 小説やお話のような筋書きだけど、実際に起こっているのだから仕方がない。とはいえ、アールの意識がどこへ行っているのかが心配でならない。

 もしもわたしと入れ替わっているのだとすれば、どうして目覚めないの?

 ウロウロと行ったり来たりしながら、アールの意識のことをあれこれ考えてしまう。

 その間にも、アールの記憶が見せてくれる。

 侯爵の真実を。彼のほんとうの姿を。

 アールが屋敷にやって来てから、侯爵はわたしの見ていないところで彼を可愛がっていた。そして、わたしの様子がどうだったのかなど、アールにいろいろ尋ねていた。

 アールは答えようがないのだけれど、それでも侯爵は尋ねていた。

 わたしが王立公園に行くようになってからは、侯爵はそっとわたしのあとをつけていたみたい。

 って、つけていた? つけられていたの、わたし?

 まったく気がつかなかったわ。というか、そこまで心配されていたの?

 驚きの連続である。
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