侯爵閣下。私たちの白い結婚には妥協や歩み寄りはいっさいないのですね。それでしたら、あなた同様私も好きなようにさせていただきます
 キャーッ!

 わたし、はしたないわ。

 男性の顔をなめるだなんて、レディのすることではないわ。

 だけど、犬だからいいわよね?

 ということにしておきましょう。

 とにかく、わたしだってわたしの気持ちをきいてもらいたい。

 だけど、どうがんばっても尻尾を振ったりペロペロなめるくらいしか表現が出来ない。

 驚くべきことに、それが唐突にやってきた。というよりかは、唐突に切れた。あるいは消えた。

 まるで燃料がなくなったランプのように、ふっと意識が遠のき、ついには真っ暗になった。

「おい、アール。どうした? アール、アール」

 彼の呼ぶ声を遠くでききながら最後に思ったのは、彼の涙は塩辛いということだった。

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