結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
別のものであってくださいと祈りながら足を上げたが、そこには無残な姿になった彼の眼鏡が転がっていた。

「おっまえなー」

矢崎くんは完全にお怒りモードだが、これは弁明の余地がない。

「えっ、あっ。
……ごめん」

無駄と知りながら壊れた眼鏡を捧げ持って彼に差し出す。
眼鏡は片方の弦が取れ、レンズにもヒビが入っていた。

「どうするんだよ、これ!」

「ベ、ベンショウシマス……」

あまりの彼の怒りっぷりに、言葉は片言になって消えていく。

「まあ、不用意に純華を見下ろしてた俺も悪いけどな」

矢崎くんは諦めるように小さくため息をついた。
彼の手が私の頭に伸びてきたけれど、それは空振りに終わる。
どうも、見えていないようだ。

「悪いけど、いったん帰って予備の眼鏡取ってくる」

「それよりも店開いてから新しいの作ったほうが早くない?
弁償するし」

モールには眼鏡店が何店か入っているし、ファストのお店もある。
片道一時間以上かけて取りに帰るより、そっちのほうが早そうだ。

「あのなー。
俺、乱視が酷くてレンズは取り寄せなの。
その日にできないの。
わかった?」

「わ、わかった」

見えないからか距離感のおかしい矢崎くんに詰め寄られ、背中が仰け反った。

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