結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
病院で熱中症だと診断され、点滴を受ける。

「……ごめん、迷惑かけて……」

あんなに矢崎くんから、水分を摂って少しでも休めと言われていた。
でも、今日の自分は目の前の仕事でいっぱいで、全然できていなかった。

「謝らなくていい」

頭を撫でる、矢崎くんの手は優しい。
しかしそれはますます私を情けなくしていった。

「……ダメだな、私。
自分のことで手一杯で、周りが全然見えてなくて……。
こんなんじゃ現場責任者、失格だ……」

初めて任された現場責任者の仕事、上手くやるんだってそればっかりで結局、みんなに迷惑をかけてしまった。
どんなに反省してもしたりない。

「純華は頑張ったよ。
司会しながら現場も回してたんだろ?
そんなの、俺だって倒れる。
純華は頑張ったよ、偉いよ」

「そ、そうかな」

気休めで言ってくれているのはわかっている。
それでも、彼の優しい言葉がじわりと心に染み、涙が浮いてくる。

「純華は偉い。
こんなに頑張る人が奥さんで、俺は誇らしいよ」

ちゅっと軽く、彼の唇が私の唇に重なった。
それが、くすぐったくて、嬉しい。

「……もう一回、して」

「ここ、病院だけどいいのか?」

からかうように小さく彼が笑う。

「……誰もいないから、いい」

「わかった」

もう一度、彼の唇が重なる。
今日くらいは、甘えていい。
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