結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
「わん!」

私が遊んでいるとでも思ったのか、脳天気な顔で鳴き、イブキはぶんぶん尻尾を振っている。

「そうだね、ちょっとだけ、ちょっとだけイブキと最後に遊んでから出ていけばいいよね」

「わん!」

同意だと、イブキが鳴く。
イブキを理由に自分に言い訳をし、紘希の帰りを待った。

「ただいまー」

「お、おかえ、り」

紘希にキスされながら、ついぎこちなくなってしまう。

「なあ。
玄関にキャリーケース出てたけど、出張でも入ったのか?」

「えっ、あっ、うん。
そう」

慌てて答えながら、彼の目は見られない。

「ほんとに?」

すぐに異変に気づいたのか、彼は眼鏡がぶつかりそうな距離まで顔を寄せてきた。

「ほ、本当。
明日から、二泊三日」

「ちゃんと俺の目を見て言え」

どうにか誤魔化そうとするのに、紘希が顔を逸らせないように手で掴んでくる。
レンズの向こうの瞳は嘘を許さないと語っていて、たじろいだ。

「ほ、本当だよ」

それでも、思いっきり視線を逸らしながらも、まだ嘘を吐きとおす。

「嘘だね」

突き放すように彼が私から手を離す。
その目は酷く冷たかった。
怒らせた。
しかし、このまま喧嘩をすれば、家を出ていきやすくなる。

「正俊になんか言われたんだろ」

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