せっかく侍女になったのに、奉公先が元婚約者(執着系次期公爵)ってどういうことですか2 ~断罪ルートを全力回避したい私の溺愛事情~
 部屋に戻ると、私はバッグのポケットに入れっぱなしにしていた、ニコルにもらった魔法具を取り出した。
 これで通信ができるのは、合計二回。使うタイミングを間違えるなとニコルに言われたけれど……ええい、使っちゃえ!
 私はボタンを押して、通信が繋がるのを待つ。魔法具は一定の間隔で光輝き、その輝きがプツリと止まると……。
《……ユリアーナ?》
 魔法具から、ニコルの声が聞こえた。
「ニコル!? よかった。ちゃんと通信できた!」
《久しぶりね。声を聞く限り、元気そうでよかったわ。アトリアはどう? うまくやれているの?》
「ニコルも元気そうでよかった! ええ、なんとか。友達もできたし、楽しくやっているわ」
 ニコルと話すと、実家のような安心感を覚える。同時に、シュトランツの屋敷が猛烈に恋しくなった。
《それで、どうかしたの? 通信をしてきたってことは、緊急事態でも起きた?》
「あ……えっと、緊急事態っていうわけじゃあないんだけど……その……」
《なによ? 歯切れが悪いわね。気になるじゃない》
 今さらになって、こんなことで通信するなと、ニコルに怒られそうな気がする。だが、もうしてしまったのだから仕方ない。一回の通信を無駄にするわけにもいかないし。
「ニコルにしか聞けないことがあって。……胸元のキスマークの意味って、知ってる?」
《……》
「……ニコル?」
 急に魔法具が無音になり、通信が切れたのかと心配になる。
「ニコル? 聞こえる!?」
《……あっ、ご、ごめんなさい。まさかそんな質問をされるとは思ってもみなくて、ひとりで固まっちゃったわ》
「そうよね。いきなりごめんなさい。でも、誰かに聞いてもらわないと落ち着かなくて……こんなこと聞けるの、ニコルしかいないし」
 前にクラウス様から内緒で追跡魔法をかけられたとき、私より早くにキスマークを見つけたのはニコルだった。その際、なぜかニコルは勝手に盛り上がって、首元のキスマークの意味を教えてくれたのだが――。
《ユリアーナったら、そっちでふたりなのをいいことに、散々楽しんでいるのね》
「え!? 違……」
《いいの。私、誰にも言わないから。でも前も言ったでしょう? そういう大人の事情、私には経験のないことだから……刺激が強いのよ》
 また勝手に、ニコルが盛り上がり始めている。こうなったニコルは止められない。
《それで、首元の次は胸元……だったかしら。胸元のキスマークの意味は、他人に渡したくないという所有欲よ》
「他人に渡したくない、所有欲……」
 クラウス様がその意味を知っているかいないかは置いておいて……やっぱり、コンラート様へ嫉妬していたのだろうか。
《クラウス様ったら、ユリアーナを誰かにとられちゃいそうで焦ったのかしら? ねぇ、なにかあったの? まさかユリアーナを巡って三角関係……!? 複雑な恋模様に振り回されて、クラウス様はついに暴走……》
「あーっ! ごめんなさいニコル! 仕事が入りそうだから切るわ! 本当にありがとう、またなにかあったら通信するわね!」
《ちょっとユリアーナ、まだ話を全部聞いてな――》
 心苦しかったものの、私はボタンをもう一度押して通信を切った。
 すると、ニコルの声は聞こえなくなり、部屋に静けさが訪れる。
「暴走してるのはニコルのほうなんだから、まったく……ふふっ」
 私は半分呆れながらも、相変わらずの親友の様子を思い出し、自然と笑みがこぼれてしまった。
「所有欲、かぁ……」
 そして、ニコルに教わったキスマークの意味をもう一度思い出す。
 鏡前に立ち改めて自分で確認すると、以前より濃い色でくっきりとキスマークがついていた。つけられたときの光景がフラッシュバックし、鏡に映る自分の顔がみるみるうちに真っ赤になっていく。これからこの赤い印を見るたびに、クラウス様のことを思い出してしまうだろう。
「私もつけたらよかったかな。……なんてね」
 誰もいない部屋で、ひとりありえないことを呟く。そもそも私は、キスマークの付け方なんて知らないのだから、できるはずがない。
 その後、晩餐のことを聞きに再度クラウス様の部屋を訪問した。結局、食堂で晩餐を摂ることとなった。なにもなかったように振る舞うクラウス様に合わせて、私も平然を装う。
 しかし、衣服に隠された胸の上のキスマークは、常に私の鼓動がうるさく鳴っていることに気づいていただろう。
その日の夜は、むかついたのに結果ドキドキさせられたことが悔しくて、やっぱりいつか、私もクラウス様に仕返ししてやると心に決めた。
 
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