初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「旦那様……大丈夫、ですか?」
 適切な言葉が思い浮かばず、つい、そう尋ねていた。
「オネルヴァ、か……」
 掠れた声でオネルヴァの名を口にした彼の手は震えており、宙をさ迷っていた。その手をがしっと両手で包み込む。ごつごつとした感触が、どこかなつかしくすら感じる。
 最近のイグナーツが忙しそうにしていたのは知っていた。
「おかえりなさい」と言って食事を運び、しばらくした後、「おやすみなさい」と告げるだけ。
 朝食は一緒にとってはくれるものの、どことなく落ち着きのない印象を受けた。エルシーも何か告げたそうであるが、そんなイグナーツの雰囲気を感じ取っているのだろう。義務的に手を動かすような朝食に、どこか寂しさを感じているようだった。
 そんな二人の架け橋となっているのがオネルヴァという存在なのかもしれない。
「旦那様、もしかして例の魔力が?」
「すまない……」
 イグナーツは魔力に侵されるたびに謝罪の言葉を口にする。
 オネルヴァは彼の身体を挟み込むようにしてソファに膝をつく。足を広げたはしたない格好ではあるが、この状態の彼を抱きしめるのであればこうするのが一番いいだろうと判断した。
 オネルヴァは彼の膝上に腰をおろし、そのままイグナーツを抱きしめる。
 今まで一人で耐えていたのだろう。人の目があるときは何事もないかのようにぐっと堪え、弱みを見せないのだ。そしてこうやって誰もいないところで静かに耐え忍ぶ。
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