初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「あ、なぜ私が知っているのか、という顔をしていますね。けして覗きなんてはしておりませんよ。結婚後の閣下の様子を見ていたら、夫婦仲が良好だなって、誰でも気がつきます」
「誰でも?」
「はい、誰でもです」
 なぜ、と問おうとしてやめた。理由を聞いたら、恥ずかしい理由が並べ立てられるに決まっている。
「なぜ? と聞きたそうな顔をしておりますので、私が気がついた理由を思い出すかぎり言いますね。まずは、苺の月のラベンダー……」
「もう、いい。わかった」
「やっぱり、自覚してるじゃないですか」
 勝ち誇った笑みを浮かべたミラーンが、やっと顔を引いた。
 苺の月のラベンダーだけで思い当たる節はある。オネルヴァとエルシーが作ったラベンダースティックを、この執務席の上に飾っておいたのだ。
 頭が痛くなるような書類仕事で疲れて顔をあげると、二人が作ったラベンダースティックが目に入る。すると、ラベンダーの微かな香りも漂ってくるような感じがした。それが、すっと疲れを奪い去っていく。
 エルシーの作ったものは、ところどころ不格好なところはあったが、彼女らしく元気の出るようなものであった。
 オネルヴァが作ったものは、非常に細かくリボンが巻き付けられ、その繊細さが彼女を表現しているように見えた。
 だからあれを見ると、オネルヴァとエルシーが側にいるような錯覚に陥り、一人で顔を緩めていたのは認める。
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