初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 ああいった環境であれば、そう思っても仕方ないのかもしれない。
「旦那様。わたくしに教えていただけないでしょうか。『幸せ』とはどんなものか」
 難しい質問である。
「それとも、旦那様は『幸せ』ですか?」
 それには自信を持って答えることができる。
「ああ。幸せだな」
「どうしてですか?」
 この質問のされ方は、数年前のエルシーを思い出す。「どうして?」「なんで?」を繰り返して、一つ答えるとまたすぐに「どうして?」と聞いてくる。
 あのときは、ヘニーやパトリックにも協力してもらい、エルシーの「どうして」攻撃に耐えたものだ。
「エルシーがいて……君がいてくれるからな」
 彼女の深い緑色の目が大きく開かれた。驚き、困惑、戸惑い。何を思っているのかはわからない。ただ、彼女に逃げられたくなくて、掴んでいる手は逃さない。
「旦那様は、エルシーとわたくしがいるだけで『幸せ』なのですか?」
「ああ……。いつまでもこの時間が続けばいいと思っている。だが、エルシーだってずっと子供というわけではないだろう? 成人して、結婚することを考えると、寂しくなる。だから今、この時間がずっと続けばいいと思っている」
 彼女の艶やかな唇が、何か言いかけようとして開きかけた。だが、すぐに閉じる。
 オネルヴァは顔を逸らし、膝の上で繋がれた手をじっと見つめていた。
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