初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 そもそも結婚しないと思っていたイグナーツは、結婚せずにこの年までやってきていた。そしてこれからも結婚する気はなかった。
 それでも周囲は、イグナーツに結婚をさせたがる。
 パトリックが口にした釣書も、二十代の女性がいたとしてもわけありの女性で、ほかは年齢が釣り合うような女性であっても、やはりわけありの女性だ。
 そういった意味ではキシュアスの元第二王女もわけありだろう。
「俺のことはどうでもいい。むしろ、エルシーが心配だ。話をして、彼女が望んでいなければ、やはりこの結婚は断ろうと思う」
 断ることはできないと何度も言われたが、エルシーを盾に使えばそれが覆るような気がしていた。
「エルシーお嬢様は、こちらが心配するくらい物分かりのよい子です。ですから、旦那様が誠意をもってお話されれば、納得してくださるかと」
「納得するしないの話ではない。エルシーの気持ちを確認したいんだ。彼女が母親を望むか望まないか。それだけだ」
 パトリックは目を細めて、ほほっと微笑んでいた。イグナーツはそれをじろりと睨みつける。
「では、私は食事の準備を言いつけてまいります。お時間になりましたら、お呼びいたしますので」
「ああ、頼む」
 立ち上がり、腰を折って部屋を出ていくパトリックを見送った後、イグナーツは限界までソファに寄り掛かった。
< 20 / 246 >

この作品をシェア

pagetop