初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 天を仰ぐ。
 キシュアス王国の前王は、国家資金を私利私欲のために使い込んでおり、国内は酷い有様だった。地方では税率をあげられ、作った農作物の粗方を税という名目で奪われてしまう。王都テシェバに住む者たちですら、物価が値上がり、今日のパンを焼く小麦すら買えない状況であった。
 その状況を打開しようとしたのが、王の弟であるラーデマケラス公爵である。
 彼は私兵団を使い、実兄を王の座から引きずり降ろそうとした。その協力依頼がきたときには驚いたと、ゼセール王も口にしていた。
 血の繋がった兄弟による争い。
 弟であるラーデマケラス公爵が、どのような気持ちで兵を挙げたのか、イグナーツは知らない。
 イグナーツにも年の離れた弟がいたが、五年前の内戦で命を失っている。もちろん、そのときにも軍を率いていたのはイグナーツである。あの内戦では、幾人もの尊い命が奪われた。
 ぎりっと胸の奥が痛んだ。
 がばりと起き上がったイグナーツは、隣の部屋へと移動する。ここはイグナーツの癒しの空間。あのエルシーであっても、絶対に立ち入らせない秘密の部屋なのだ。
 イグナーツは目当てのものを見つけると、それを静かに手にとった。



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