初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「イグナーツ殿。これはこちらの責任だから、俺たちが連れていく。イグナーツ殿はオネルヴァを頼む」
「ああ。後は任せた」
「閣下。北軍の指揮は私が執りますので、奥様をお願いします」
 ミラーンはぴしっと頭を下げてから、階段を駆け上がっていく。
 薄暗い牢内に、オネルヴァはイグナーツと共に取り残された。
 イグナーツは上着を脱ぐと、オネルヴァの肩にそっとかける。
 あの男に引き裂かれた萌黄色のワンピースは、みすぼらしいことになっているし、下着すら見えていた。
 急に恥ずかしくなり、かけてもらった上着をきつく握りしめる。そこから伝わる彼のぬくもりに、少しだけ心が凪いだ。
「オネルヴァ、すまない。君を巻き込んでしまった……」
 カトリオーナに打たれて頬をイグナーツが優しくなであげると、すっと痛みが引いていく。
「ミラーンさんは……」
 それが一番わからなかった。彼はカトリオーナの言いなりで、そしてイグナーツを助けた。
 イグナーツとシステラ族は敵対していて、カトリオーナはシステラ族と手を組んでいた。その双方に関係しているミラーンの立場がわからない。
「ミラーンには敵に寝返った振りをしてもらった。ミラーンの母親はシステラ族だからな。自分が適任だと、ミラーンが自らそう口にした」
「そうだったのですね……」
 オネルヴァも、ミラーンが本当にイグナーツを裏切ってしまったのだろうかと疑ってはいた。彼の言動が、どこか心に引っかかるものがあったからだ。
「オネルヴァ……。今、これだけは君に伝えたい」
「なんでしょう?」
「産まれてきてくれて、ありがとう……。俺と出会ってくれて、ありがとう」
 我慢していた涙が、一気に溢れた。

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