初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 目が覚めると、日はずいぶんと高くまで昇っていた。隣で寝ていたはずのイグナーツの姿はない。慌ててヘニーを呼ぶ。
「ごめんなさい。寝過ごしたようで」
 身支度を整えながら謝罪の言葉を口にするが、ヘニーはすべてをお見通しであるかのように微笑んだ。
 イグナーツは北の関所に向かったと言う。それから、アルヴィドがここを訪問する件もなくなってしまったとのこと。昨夜のことを考えれば、仕方のないことかもしれない。
「お母さま、おはようございます」
 オネルヴァが食堂に入ると、先に食事を終えたエルシーがぱっと顔を輝かせた。彼女の前のテーブルには何もないことから、食事を終えてもここでずっと待っていたのだろう。隣の椅子にはうさぎのぬいぐるみが行儀よく座っている。
「おはよう、エルシー。遅くなってごめんなさい。エルシーは朝食を終えたのかしら?」
「はい。たくさん食べました」
「まぁ。それはよかったですね」
 オネルヴァは、エルシーの隣に座った。もちろん、うさぎのぬいぐるみが座っていないほうの隣だ。
 オネルヴァの分の朝食が並べられる。
 そこに、昨日立ち寄ったジナース酒蔵の葡萄水が並べられたのは、誰の気遣いなのだろう。

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