初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「今さら恥ずかしがる必要もないだろう」
 こういった余裕のある様子が悔しい。
 イグナーツの手が伸びてきて、オネルヴァの身体を支える。その手に誘われるがまま身体を預けたら、彼に胸に背中を向けるような形で座らされた。これではまるで、イグナーツが椅子のようである。
 耳元で彼は言葉を続ける。それは先ほどのこと。戻ってから教えると約束したあの内容。
 イグナーツたちは、カトリオーナたちが修道院から逃げ出した情報を得ていた。それを助けたのはシステラ族の生き残りである。
 これらはミラーンがシステラ族から仕入れた情報でもある。システラ族の中には争いを望まない者もいる。そういった者とミラーンが手を結び、互いに情報のやりとりをしていたのだ。
「ミラーンさんは諜報員なのですか?」
「俺の信頼できる部下だからな。なんでもできるんだ」
 そう言った彼の声は、どこか誇らしげに聞こえた。
 二人で風呂に入ったが、イグナーツは最初の言葉通り、それ以上のことは何もしてこなかった。ただ、オネルヴァの身体と心をあたためただけ。
 ほくほくと湯気が漂うような身体のまま、二人で寝台にもぐりこんだ。
 こうやって抱き合って眠るだけなのに、身体も心も満たされた気分になるのが不思議だった。
 ――産まれてきてくれて、ありがとう。
 眠りへと誘われていくなか、彼のその言葉が忘れられない。

< 233 / 246 >

この作品をシェア

pagetop