初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「それとも。俺がここに来るのが不満なのか?」
「不満なんて、ありません。ただ、お兄様もお忙しい身ですから、何もわざわざこちらに来なくても……」
「そうもいかないんだ。君は、大事な褒賞だからね。君がゼセールに嫁ぐから、向こうはこちらに援助してくれるんだよ」
 オネルヴァは自分自身にそれまでの価値があるとは思えなかった。だからこそ、ゼセール王国を疑ってしまうのだ。いつか足元をすくわれてしまうのではないか、と。
「そのような不安な顔をするな」
 アルヴィドはオネルヴァの隣に座った。彼の大きな手が伸びてきて、オネルヴァの頭を撫でた。
「顔色が悪い。そうやってすぐに何事も真面目に取り組むのは君のいいところでもあるが、限度を知らないのは悪いところでもある」
 彼はテーブルの上に散乱している書籍にチラリと視線を向けた。
「君にばかり辛い思いをさせて、悪いとは思っている」
 頭を撫でていた彼の手は、オネルヴァの藍白(あいじろ)の髪をすくった。かさかさに乾いていたその髪も、ここにきてからは艶が溢れようになった。
「もっと早く君をあの場所から救い出すことができていたら、今頃君は、……になっていたのかな?」
 手にした髪の先に、アルヴィドは唇を落とした。
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