初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 離宮の物置小屋のような部屋にいたときは、一日一食しか運ばれてこない。それを、二回分にわけて、食べていたのだ。生命維持のためのぎりぎりの食事量といってもいいほどである。だから、なんとか二十二年も生きられたが、身体は細く部位によっては骨も浮き出ていた。
 それがこの部屋にきてから、温かく味のある食事を提供され、身体にも丸みを帯びてきた。それでも、出される食事の量にはまだ慣れない。とくに、お腹に溜まるような肉料理は、食べきれないことも多い。残すのはもったいなくて、事前に食べられる量を申告しているのだが、侍女頭や料理人たちは何かとオネルヴァに食べさせたがる。
 だが、アルヴィドはその食の細さを心配しているようだ。
 長椅子から立ち上がったオネルヴァは、窓際にゆったりと近づく。
 レースのカーテンにそっと触れ、外を見る。
 青い空がどこまでも広がっていた。その下には、民が住む街並みが広がっている。
 あそこがどのような状況になっていたかなんて、オネルヴァは知らなかった。そして今も、知らない。自分がゼセール王国に嫁ぐことによって、彼らの暮らしが少しはよくなるのだろうか。
 オネルヴァは流れる雲をじっと見つめていた。
 その日以降、彼女の周囲は慌ただしくなった。なにしろ十日後にはゼセール王国へ嫁ぐのだ。人質としてなのか褒賞としてなのか微妙なところではあるが、それでも自身に課せられた義務を果たそうと、彼女は思っていた。
 あの場から助けてくれたアルヴィドのためにも、そして何よりも彼が救おうとしたこの国のためにも。
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