初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「俺だけ、仲間外れ……」
 つい、心の声が漏れ出た。
 先ほどもオネルヴァの人参ケーキを食べられなかったため、心の中で悔しい思いをしたばかりだ。
 妻と娘が仲良くする姿は、見ていて微笑ましい。だが、そこに夫であり父親である自分が混ざれないのは、仲間外れにされている気分にすらなってしまう。
 だが、イグナーツはオネルヴァと共寝していない。
「エルシーとの約束だからな。人参を食べられるようになったら、エルシーの言うことをきくと。みんなで一緒に寝るのも、たまにはいいだろう」
 エルシーが間にいれば、オネルヴァに触れなくて済む。そんな考えも、イグナーツにはあった。
 それに、露骨にオネルヴァのことを避けるべきではないだろう。エルシーは母親として彼女を認めている。ここで冷めた夫婦仲を娘に見せるのは気が引けるし、イグナーツ自身も、彼女とはうまくやっていきたいと思い始めている。
「よかったですね、エルシー。でしたら、シチューの人参も食べてみましょう」
 オネルヴァは、シチューに残されていた人参に気がついたようだ。エルシーは罰の悪そうな顔をしている。
「人参だけでなく、こちらのお野菜と一緒に食べるといいですよ」
 むっとしたエルシーは、頑なに口を結んでいる。それは、食べるもんかという意思の表れでもある。
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