初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
◇◆◇◆ ◇◆◇◆

「お父さま、お母さま」
 夕食の時間。エルシーが両親を呼んだ。
「今日、本当に一緒に寝てくれるのですか?」
 瞳は嬉しそうに輝いているが、その奥からは『約束を守ってくれますよね』と強い意志を感じられた。
「ああ、もちろんだ。先ほどもその話をオネルヴァとしていたところだ。俺の休暇も明日までだし。今夜なら、ちょうどいいだろう」
「お父さま、ありがとうございます」
「エルシー、あまり興奮しては、眠れなくなりますよ」
 オネルヴァは気の高まっているエルシーを落ち着かせようと、声をかけた。
 エルシーはにかっと笑うと、あれほど苦手であった付け合わせの人参をパクリと食べた。
「なんだ。もう、人参は平気なんだな」
「お父さまとお母さまのおかげです。楽しみです。どこで、みんなで寝るのですか?」
 やはりエルシーもそう思うのだろう。
「エルシーの部屋がいいだろう。慣れたところで眠ったほうが、気持ちも少しは落ち着くだろう?」
 イグナーツがそう言うのも仕方のないことだ。先ほどからエルシーは、食事中であるにもかかわらずそわそわとしている。
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