初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
 勢いよく扉が開き、きらきらとした笑みで輝いているエルシーが、ばっとオネルヴァに抱き着いた。
「お母さま、本当に来てくださったのですね」
「約束ですから。すぐに旦那様も来ると思います」
 オネルヴァが目配せをすると、ヘニーは一礼してその場を去った。オネルヴァはエルシーに引っ張られるようにして部屋の中へと連れていかれる。
 そこは珊瑚色の壁紙に淡い花の柄が描かれ、見るからに子ども部屋といった色調である。部屋の奥に、天蓋つきの寝台がある。
「まぁ」
 オネルヴァがつい声を漏らしたのは、エルシーの寝台にはたくさんのうさぎのぬいぐるみが並べられていたからだ。ぬいぐるみは赤ん坊ほどの大きさであり、オネルヴァでも両手で抱きかかえる必要がある。
「かわいいうさぎさんですね」
「お父さまから、毎年お誕生日にもらいます」
 エルシーは、毎日うさぎのぬいぐるみたちと寝ていたようだ。ぬいぐるみは六体。それはエルシーが六歳だからだろう。
「今日はお父さまとお母さまが一緒なので、うさちゃんはこちらで寝ます」
 エルシーは寝台の上のぬいぐるみを、ソファの上にと移動させる。うさぎがいなくなると、大人二人は余裕で眠れる広さができた。
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