初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「オネルヴァ」
「は、はい……」
 イグナーツの低い声で名を呼ばれるのは、嫌いではない。
「俺の休暇も今日で終わる。明日からは、俺が留守の間、ここを頼む。もちろん、エルシーのことも」
「はい」
 彼のことは嫌いではないが、緊張はする。今も、トクトクと心臓がうるさい。
 食事が運ばれてきたため、会話は途切れた。
 食事の時間は、エルシーに食事のマナーを教える時間でもある。エルシーの所作も、落ち着いてきたようだ。
 たまに彼女の手元に視線を向けるが、すぐにエルシーに気づかれてしまう。そうすると彼女は、にかっと笑うのだ。そのときに別なところから視線を感じ、その視線の主を探るとイグナーツである。
 彼は何も言わないが、こうやってときどきオネルヴァとエルシーをじっと見つめている。
 エルシーと外で散歩をしているときもそうだ。屋敷の中からじっと見つめている。それだけエルシーのことを気にかけているのだろう。もしくは、オネルヴァを信用していないのか。
「オネルヴァ」
「はい」
「新婚旅行にも連れて行けずに、悪かったな」
 突然、何を思って彼がそう言ったのか、オネルヴァには理解できなかった。
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