初心な人質妻は愛に不器用なおっさん閣下に溺愛される、ときどき娘
「お母さま」
 いつも不穏な空気を和らげるのは、エルシーの役目だ。
「お母さまはお父さまと結婚式がしたいですか? エルシーはしたほうがいいと思うのです。お母さまがドレスを着たところを、エルシーは見たいのです」
「え?」
 あまりにもの純真無垢な質問に、オネルヴァは答えるのを躊躇ってしまった。
「お父さまは若くないからって、結婚式をしたくないそうです」
 エルシーの言葉がさも事実であるかのように、イグナーツの顔が徐々に赤くなっていく。
「エルシー。それは俺とオネルヴァの問題だ。子どもは黙っていなさい」
 その言葉に、控えていたパトリックが反応した。だが、何かを言い返すわけではない。ただ冷たい視線でじっとりとイグナーツを見ているのだ。
「政略結婚とはいえ、結婚は結婚だからな。どこかでけじめをつけるべきだと思っただけだ」
 それが新婚旅行に繋がったのだろうか。
「はい。旦那様のそのお気持ちだけで充分でございます」
 オネルヴァのその言葉も社交辞令ではない。そうやって思ってくれるだけで、胸の奥が熱くなる。
「パトリック。俺がいない間、オネルヴァにはこの屋敷のことをいろいろと教えてやってくれ。女主人として、軍人の妻として何をすべきか」
 パトリックは黙って頭を下げる。
 本来であればもう少し早い時期からそういった内容を引き継ぐべきだったのだろう。今までのんびりとした時間を与えてもらっていたことに感謝をしつつも、イグナーツがよくわからなかった。

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