君と笑い合えるとき
「あまいね」



そう言う静流くんの声が嬉しそうで,私はついチラリと視線を向ける。

誰よりも,甘い笑顔。

よく,そんなものに私は顔を隠してしまうから。

くせで,危うくまた顔にわたがしを着けるところだった。



「色だけじゃなくて,味も違うんだよね」



ふと,私を見る静流くん。

私は小さく,うん……と答える。

じいっと見られる1秒。

私はす,と1本刺さる割り箸を傾けた。



「ありがとう」



そういって,私の唯一物を持てている手を掴む。

そのままは困ると口を開閉すると,静流くんは繋いだ手をゆっくりと離した。

私がそう感じるだけだけど,名残惜しさの残るような,静かな離れだった。

静流くんの,この行きすぎない塩梅に振り回されるのはいつものこと。

少しでも口をつけられたなら,甘党の静流くんに全て押し付けようとしていた私は,ほっとしてしまう。

むしるようにした静流くんが,ぺろりと舐めとった。

美味しそうで,何よりです。

私はまた,自分側のわたがしを口に含む。

こっち,と言われて,私は静流くんと場所を入れ替わった。

何かあるのかなとその通り動けば,静流くんはわたがしの持ち手を変えて。

また私の手を握る。



「こっち,ベタついちゃったから」



自分の鼻先をさすり,なるほどと思う。

だけど同時に,わざわざ,なんて思った私は,自分からしてみても年相応に見えて。



「食べる?」



僕のも,なんて。

言われなくても分かった。

そうかかしげる姿は,美しくも格好いい。

人によっては,きっと可愛いなんて言ってしまうくらいの隙のなさ。

頷いてばかりの私は,また例に漏れず,1つ頷いて。

静流くんのように,だけど手には触れずに。

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