ヒーローはかわいい天使さま
「大丈夫?」
声をかけると、男の子はこけたらしく、膝から血を流していた。他に痛いところはないかと聞きながら、全身を確認する。少しの打ち身だけで、頭は打っていないらしい。
「お姉ちゃん、絆創膏を持ってるよ。とりあえず、傷口をお水で洗おう」
男の子は涙をぽろぽろと流し、唇をきつく結んだまま頷いた。
――小さいころの碧維みたい。
土を払い、傷口を水で洗い終えるとハンカチで血をぬぐう。止血のために絆創膏を貼ってあげた。
「よし、これで大丈夫!」
「おねえちゃん、ありがとう」
男の子はぺこりと頭をさげた。もう、涙は流していない。
「できないのに、いきなりバク転なんてしようとするからだよ」
さっきまで不安そうに手当を見守っていた女の子が、唇をとがらしながら言った。
「バク転かぁ。できたらかっこいいもんね、気持ちはわかるよ」
笑いかけると、男の子は目をきらきらと目を輝かせた。
「忍者や戦隊ヒーローが敵と戦うとき、びゅんってまわるだろ。かっこよくて、ぼくもしてみたかったんだ」
「ヒーローや忍者はね、できるようになるまで先生に習って、たくさん修行しているの。バク転ができるようになるにはちゃんと、体操クラブに通った方がいいよ」
「体操クラブに通えば、ぼくもできるようになる?」
私は力強く頷いてみせた。
「ちょっと、見ててね」
二人から離れ、軽く足首と手首を回す。助走をつけて側転をすると、一度後ろ向きにジャンプ、そこからバク転を一回して見せた。
久しぶりにやったけれど、ちゃんとできた。ほっと胸をなでおろす。
「うわあ! お姉ちゃんすごい。ヒーローみたい!」
「バク転……後転をする前に、走って側転、上半身を捻って着地するのをロンダートっていうの。バク転するための助走なんだよ。お姉ちゃんもね、小学生のときに体操クラブに通ってたんだよ」
「かっこいい! ぼく、お姉ちゃんみたいにないたい!」
「先生に教えてもらって、いっぱい練習すれば、必ずバク転できるようになるよ」
「わかった。体操クラブ通わせて欲しいって、ママとパパにお願いしてみる!」
「あたしも、ろんだーと? してバク転できるようになりたい!」
「うん。がんばれ。きっとできるようになるよ。未来のヒーローたち!」
子どもたちは顔いっぱいに笑みを浮かべた。
ぽつりと冷たいものが頬に落ちてきた。
雨が降りはじめた。私は木陰に戻り、折りたたみ傘を手に取ると二人に差し出した。
「傘、貸してあげるからお家に帰ろうね。傷口は、ちゃんとママとパパに見せて、消毒してもらってね」
「うん。おねえちゃん、本当にありがとう」
二人で一つの傘を使い、帰っていく。小さな背を見送っていると、幼いころの自分と碧維を思い出した。
雨脚がどんどん強くなっていく。雨宿りできそうなかわいらしいゾウの形をした滑り台の下に移動した。
ハンカチはさっき手当に使ってもうない。手でできる限り水をはじく。髪もぬれてしまって毛先は自由にうねりはじめた。今にも落ちそうな花柄のヘアピンを手に持った。
「ヒーローみたい、か……」
『ぼく、くるみちゃんみたいに強くなりたい』
小さな碧維が、目に涙を浮かべていたときのことを思い出した。
声をかけると、男の子はこけたらしく、膝から血を流していた。他に痛いところはないかと聞きながら、全身を確認する。少しの打ち身だけで、頭は打っていないらしい。
「お姉ちゃん、絆創膏を持ってるよ。とりあえず、傷口をお水で洗おう」
男の子は涙をぽろぽろと流し、唇をきつく結んだまま頷いた。
――小さいころの碧維みたい。
土を払い、傷口を水で洗い終えるとハンカチで血をぬぐう。止血のために絆創膏を貼ってあげた。
「よし、これで大丈夫!」
「おねえちゃん、ありがとう」
男の子はぺこりと頭をさげた。もう、涙は流していない。
「できないのに、いきなりバク転なんてしようとするからだよ」
さっきまで不安そうに手当を見守っていた女の子が、唇をとがらしながら言った。
「バク転かぁ。できたらかっこいいもんね、気持ちはわかるよ」
笑いかけると、男の子は目をきらきらと目を輝かせた。
「忍者や戦隊ヒーローが敵と戦うとき、びゅんってまわるだろ。かっこよくて、ぼくもしてみたかったんだ」
「ヒーローや忍者はね、できるようになるまで先生に習って、たくさん修行しているの。バク転ができるようになるにはちゃんと、体操クラブに通った方がいいよ」
「体操クラブに通えば、ぼくもできるようになる?」
私は力強く頷いてみせた。
「ちょっと、見ててね」
二人から離れ、軽く足首と手首を回す。助走をつけて側転をすると、一度後ろ向きにジャンプ、そこからバク転を一回して見せた。
久しぶりにやったけれど、ちゃんとできた。ほっと胸をなでおろす。
「うわあ! お姉ちゃんすごい。ヒーローみたい!」
「バク転……後転をする前に、走って側転、上半身を捻って着地するのをロンダートっていうの。バク転するための助走なんだよ。お姉ちゃんもね、小学生のときに体操クラブに通ってたんだよ」
「かっこいい! ぼく、お姉ちゃんみたいにないたい!」
「先生に教えてもらって、いっぱい練習すれば、必ずバク転できるようになるよ」
「わかった。体操クラブ通わせて欲しいって、ママとパパにお願いしてみる!」
「あたしも、ろんだーと? してバク転できるようになりたい!」
「うん。がんばれ。きっとできるようになるよ。未来のヒーローたち!」
子どもたちは顔いっぱいに笑みを浮かべた。
ぽつりと冷たいものが頬に落ちてきた。
雨が降りはじめた。私は木陰に戻り、折りたたみ傘を手に取ると二人に差し出した。
「傘、貸してあげるからお家に帰ろうね。傷口は、ちゃんとママとパパに見せて、消毒してもらってね」
「うん。おねえちゃん、本当にありがとう」
二人で一つの傘を使い、帰っていく。小さな背を見送っていると、幼いころの自分と碧維を思い出した。
雨脚がどんどん強くなっていく。雨宿りできそうなかわいらしいゾウの形をした滑り台の下に移動した。
ハンカチはさっき手当に使ってもうない。手でできる限り水をはじく。髪もぬれてしまって毛先は自由にうねりはじめた。今にも落ちそうな花柄のヘアピンを手に持った。
「ヒーローみたい、か……」
『ぼく、くるみちゃんみたいに強くなりたい』
小さな碧維が、目に涙を浮かべていたときのことを思い出した。