ヒーローはかわいい天使さま
 碧維は顔をしかめてしまったけれど、気にせず言葉を続けた。

「先輩と付き合ってるなら、言ってほしかった。華恋先輩があいさつしたとき、そっけなくてすっかり騙された。幼なじみなんだし、言ってほしかった」

「付き合ってない」

 ぴたりと言葉が途切れ、二人の間に雨の音だけが響く。

「……どうして隠すの?」

 絞り出した声は震えた。

「隠してないし、騙してなんかいない。てか、なんでそう思った?」
「人が話しているのを聞いたの」
「俺より、他人の言葉を信じるの?」

 碧維は苦しそうに顔を歪めた。この表情は傷ついているときの顔だ。

「私、二人が中庭にいるのを見たの。だから……」

 反応が予想と違う。もっと、「実は付き合っている」と照れたり、恥ずかしがられると思っていた。

「勝手に盗み見してごめん。でも、二人とても美男美女でお似合い……、」

「華恋先輩は、朱翔の彼女なんだ」

 私は言葉を飲み込んだ。まばたきだけを繰り返す。

 ――朱翔くんの彼女って、たしか、私たちより年上で朱翔くんにべた惚れで……。

 目を泳がせていると、碧維は頭をさげた。

「おどろかせてごめん。華恋先輩のことは、兄貴のことが好きな來実にはショックだろうなと思って、言い出せなかった」

 朱翔くんに彼女ができたと来たとき、確かにおどろいた。

「朱翔と華恋先輩が付き合いはじめたのは、春休みからなんだ。先輩、朱翔の仕事場でバイトしているらしくて、まだ内緒の交際なんだって」

 社員がバイト、しかも高校生との交際は、どうしても周りの目が厳しくなる。彼女を守るために碧維が間に入ることが多いと説明してくれた。

「華恋先輩に頼まれて、朱翔のプライベート写真を撮っている。中庭ではそれを見せていただけ。お互い撮った写真を交換し合っていた」

 写真と聞いて先日の朝、碧維が朱翔を撮っていたことを思い出した。

「交換って、碧維も? 誰かの写真をもらってたの?」
「……好きな子の写真」

 少し気まずそうにする彼を見て、私は目を大きく見開いた。

「碧維、好きな子が、いるの?」

 碧維は目を細めた。

「いるよ。しかも何年も片思い」

 私はさっき以上に、目を大きく見開いた。

 碧維が何年も片思いをしている相手が誰なのか、いつも近くにいたのにわからない。

「碧維、かっこいいのに。雨にぬれながら探しに来てくれるようなやさしい人なのに、ずっと片思いなんて、どうして? 信じられない……」
「俺じゃない、別の人のことが好きだからね、しかたない」

 彼は苦笑いを浮かべた。

「私、碧維のことならなんでも知ってるつもりだった。なのに、好きな人がいたなんて知らなかった」

 私は碧維の頭をよしよしとなでた。

「ごめんね。幼なじみなのに、気づいてあげられなくて」

 すると、碧維は困ったように眉尻をさげながら笑った。
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