ヒーローはかわいい天使さま

「日向くん。おはよう」

 碧維はバス停を降りるとすぐに、女子に囲まれた。
 見た目も性格もいい彼は人気者だ。屋外でも校舎内でも、よく女子からの熱い視線を感じる。ただ、碧維の対応はそっけない。
 近寄ってきた女子とは目も合せず、素通りした。

「もっと、感じよくしてもいいんじゃない?」
「どうして?」
 見かねて注意すると、ぶすっとした顔を向けられた。

「あいさつは大切なんだよ! よりよい人間関係を築く大事な一歩!」
「人間関係を築く一歩って……」
「あ、今大げさって思ったでしょ? 朝のあいさつは一日のはじまりなんだから、特に大事なんだよ。笑顔ではきはきと、おはよう! わかった?」
「來実、あいさつ委員してたもんな」
 碧維は目を細め、やさしく笑った。

 小学校のとき、朝早くに校門の前で立ち、登校する生徒にあいさつする係りを、私は四年生から三年間続けた。

「みんな、碧維と仲よくなりたくて声をかけてくるんだよ。あいさつはもっと感じよく返すこと」
「俺は別に、仲よくなりたくない」
「友だちは大事!」
「友だち、ね……」と言いながら、彼は苦笑いを浮かべた。

「わかった。次から気をつける」
「何の話をしているの?」

「おはよう」と、声をかけてきたのは料理部の先輩、溝渕華恋(かれん)だった。部長の彼女に私は元気よく「おはようございます!」とあいさつを返した。

「來実ちゃん朝から元気だね。碧維くんも、おはよう」

 先輩があいさつしてくれているのに、碧維は頭を軽くさげるだけで、やっぱりそっけない。私はあわてて腕をひじで突いた。

「……おはようございます」
 華恋はほほえむと、來実の髪飾りを見た。

「かわいいヘアアクセサリーだね」
「かわいいですか? ありがとうございま……、」
「俺、先に行く。じゃあな、また放課後」

 碧維は友だちらしい男子に話しかけ、先に行ってしまった。

 ――私がした忠告、ぜんぜんわかってない! 

「ごめんなさい。私、邪魔しちゃったね」
 碧維の背をにらんでいると、華恋先輩が申しわけなさそうに眉尻をさげた。

「そんなことないです! 碧維はいつもマイペースなんです」
「來実ちゃんみたいな元気な新入生が、料理部に入ってくれて嬉しい。これからよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
 
 がばっと頭をさげた。

「よろしくって言ったばかりで申しわけないんだけど、私、今日は部活を休むの。副部長からしっかり教えてもらってね」
「はい!」

 そよ風が吹き、華恋先輩の長い髪がさらりと揺れる。憧れの艶々ストレートヘアに見とれた。
 やさしくて気さくで、かわいらしい華恋先輩は、私の理想の女の人だった。彼女のような大人っぽい女子になりたいと憧れていた。


「ねえ、知ってる? 一組の碧維くん、華恋先輩と付き合ってるんだって」
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