不埒な上司と一夜で恋は生まれません
 



 朝、カンカンカン、と軽やかに階段を上がってくる音がした。

 次に、
「うわっ」
と男の驚いた声が聞こえる。

「どうしたっ!?」

 玄関前にしゃがんで寝ている自分に驚いて声を上げたのは、隣の部屋の住人、羽積宗高(はずみ むねたか)だった。

 三階の奥さんが、

『羽積さんって、イケメンだけど。
 なんの仕事をしているのか、よくわからない人よね。

 朝帰りが多いし、筋肉質だから。

 ガードマンか、土木工事の人か、バンドマンかしら?』
とか、いつも言っている。

 だが、そのどれなのか、本人に確かめたことはないようだった。

 その羽積に、
「なにやってんだ?」
と問われ、和香は、

「いや~、ちょっと閉め出されちゃいまして」
と苦笑いして答える。

 羽積は手入れなどしそうもないのに、キリッと整った眉をひそめて言った。

「一人暮らしなのにか……」
< 16 / 438 >

この作品をシェア

pagetop