不埒な上司と一夜で恋は生まれません
「あんた、昨日、課長とトンカツ屋にいなかった?」
次の日の朝、和香のデスクに近づいてきた美那が、口元に当てた書類の陰から小声でそう訊いてきた。
「はあ、いました。
この間、呑み会のあと、課長を送っていったじゃないですか。
そのお礼で」
と言うと、
「そうなの。
……いいわね」
とそう、いいわね、とも思っていない感じに美那は言う。
「今、私の中に、もう考えても仕方がない過去のことなのに、葛藤が吹き荒れているわ。
二次会に行くのを断念して、課長を送っていけば、出世頭のイケメン課長とお近づきになれたかもしれない。
でも、あの課長、めんどくさそうな人だし。
あの日の呑み会、超盛り上がってたから、途中で帰るの、絶対嫌だったし。
二次会で語られた、いつもお堅い福田部長の奥さんとの社内恋愛の話、じんと来たし。
営業の吉原さんと二次会、隣の席だったし。
課長と向き合ってトンカツ屋とか、疲れそうだし。
っていうか、なんで、トンカツ屋なの?」
「……課長がトンカツ、好きだったんじゃないですかね?」