不埒な上司と一夜で恋は生まれません
 


「あんた、昨日、課長とトンカツ屋にいなかった?」

 次の日の朝、和香のデスクに近づいてきた美那が、口元に当てた書類の陰から小声でそう訊いてきた。

「はあ、いました。
 この間、呑み会のあと、課長を送っていったじゃないですか。

 そのお礼で」
と言うと、

「そうなの。
 ……いいわね」
とそう、いいわね、とも思っていない感じに美那は言う。

「今、私の中に、もう考えても仕方がない過去のことなのに、葛藤が吹き荒れているわ。

 二次会に行くのを断念して、課長を送っていけば、出世頭のイケメン課長とお近づきになれたかもしれない。

 でも、あの課長、めんどくさそうな人だし。

 あの日の呑み会、超盛り上がってたから、途中で帰るの、絶対嫌だったし。

 二次会で語られた、いつもお堅い福田部長の奥さんとの社内恋愛の話、じんと来たし。

 営業の吉原さんと二次会、隣の席だったし。

 課長と向き合ってトンカツ屋とか、疲れそうだし。

 っていうか、なんで、トンカツ屋なの?」

「……課長がトンカツ、好きだったんじゃないですかね?」
< 37 / 438 >

この作品をシェア

pagetop