「世紀の悪女」と名高い侯爵令嬢がクズ皇太子に尽くし続けた結果、理不尽にも婚約破棄されたのですべてを悟って今後は思うままに生きることにする~手始めに隣国で手腕を発揮してみるけど文句ある?~
 剣を教えてもらったくらいでは、彼らのほんとうの強さがわかるわけがない。

 それなのに確信している。

 どういう根拠からって、尋ねたくなる。

 だけど、言わなかった。

 言えば、どうせ口論になるでしょうから。

 この狭い空間で、しかも緊張と不安で押しつぶされそうな中で口論することほどバカなことはない。

「おれもいっしょにいたかったが、おれでは彼らの足手まといになるだけだ。それだったら、彼らに任せておれは隠れていた方がいい。だろう?」

 美貌に苦笑が浮かんだ。

「彼らがそんなに強いのだったら、あなたが強い弱いのってことは関係ない。だれでも足手まといになるわ。それに、あなたはわたしを守らなければならない。だったら、わたしの側にいてくれなきゃ。でしょう?」

 わたしの顔にも苦笑が浮かんでいるかしら?

 彼を慰めたり元気づけたり、というわけではない。自然とそんなふうに言っていた。

「そうだな。きみを守る。きみときみの家族に約束しているからな。なにより、それがおれの使命だから」
「クスト……」

 使命だなんて大げさね。

 そんな表現をすれば、わたしがよろこぶとでも思っているのかしら。
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