ヴァンパイアガールズ
それは,1つの恋のお話だった。

優しいのか優しくないのか分からないけど,どうせ子供に多くは理解出来ない,表面を無邪気さで覆った物語。

実話かもしれないと内容に思いながら,まるでグ⚪ム童話の様だと思う。

物語の始まりは,少年が恋に落ちたこと。

たまに少女に試されからかわれながら,2人はひっそりと愛を育んでいく。

ある時,とうとう結婚が決まった。

互いの両親もにこにこの,祝福された幸せな結婚だった。

けれど,そんな大事な結婚式の日。

花嫁の女性に片想いしていた男が,突然花嫁を拐ってしまった。

式は騒然となり,直ぐ様中止した結婚式。

一族総出で,花嫁を探した。



「僕の愛するヴァンパイア」



丁度読み直していたところで,ハルが読んだ。

丸読みだ。

少し苦しそうに見えて,私はまた紙面に視線を落とす。

花嫁は,沢山時間をかけた後,無事発見される。

けれど,無事なのはその時だけで,誰がみても時間制限付きの無事だった。

自分のものにならないならと,花嫁を(かどわ)かした男が心中をはかり,迫る太陽の下に眠る花嫁と共にいたからだった。

誰もが諦めた。

もう日が近い,助けは明日まで待たなくてはと,小さな抵抗で男へと必死に説得を試みた。

あと1分,あと50秒。

そこで,花婿が登場する。

花婿をみて,高笑いをする男。

男は人足先にと,自分の頭を拳銃で撃った。

弾は,銀の弾丸だった。

花婿は,花嫁のもとへ走る。

誰もが止めた。

それを振り切って,花婿は花嫁を迎えに行った。

花嫁は助け出されたあとに,ようやく目を覚ます。

花婿は,ほとんど灰と化して,砂で運ばれていた。

驚いた花嫁が灰を集め,まだ戻る気力はあるかと一族がこねたりなんなりしてみたけれど。

花婿は命を吹き返さなかった。

涙を流す花嫁に,最後の1粒の灰が風に舞い,花婿の声を届ける。




『日がくれたら,また結婚式をしよう』




それは,まだ生きていてと言う,最後の愛の言葉だった。

花嫁は何度か自殺を考えながらも,20年生きた。

近所の子供を,望めなかった自分の子供のように見守って,寂しさのあまり,幸せのまま頭を撃った。

あの日のことを知らないはずの花嫁が,銀の弾丸で。

一族は彼女との別れを惜しんだ。

けれどよく今まで生き抜いたと褒め称え,再開した花婿もまた,静かに彼女を抱き締めたと言う。

そしてそのあと共に天国へ向かい,式をあげるのだと。

描写と綺麗な挿し絵があった。

日に当たれないヴァンパイアも,死んだら上に行くのかと不思議に思う。

けれど,全ての概念の基盤は,ヴァンパイアより先に広く暮らしていた人間だったと思い直した。
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