ヴァンパイアガールズ





「あ」



そのたった1音のひとことに,悔しくも私は反応してしまった。

丸い目のまま振り向くと,知らない人同士のはずのその人は,私をじっと見つめる。



「……ちはや」

「なんだ,名前知ってたのか」

「違う。見かけた時,友達が言ってたの」



教えてくれた,とは言いたくなかった。

名前なんかが気になったのかと,からかわれそうで。



「で,やっぱそっちなんだな」



そっちと言うのは,ヴァンパイアの校舎だろう。

私は目蓋を伏せ,無言を貫いた。



「いいのかよ」

「いいの」



だから,気付いたちはやも黙ってて。

忘れていた訳じゃない。

私の存在は,いろんなところに露見してしまったから。

もう時間は多くない。



「代償は」



勘がいいにも程がある。



「……ないしょ。約束が,1つだけ」

「ろくなもんじゃ無さそうだな」



ほっといてよ。

私はくるりと背を向けた。

ちはやと知り合いなんて,周りにバレたらまた嘘が増えるから。



「じゃあ,ばいばい」



もう,話すのは最後。

そう口を閉じた私の背中に,ちはやは声をかける。



「ちょっと,付き合えよ」



時刻は,冬の長い夜が明ける2時間前,シルバー·ブレッドの放課後。



「は?」



真っ黒な重たい空が,低く揺れた。
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