初めての恋はあなたとしたい
翌朝。
出勤すると周りがざわついていた。
望月さんも何か言いたそうに言いかけるが止まってしまう。
昨日は夜から目元をクーリングしてたし腫れていないはずなんだけど、とそっちの心配をしていると夏木くんが出勤してきた。

「おはよう」

私が話しかけると「おはよ」と片手をあげる。なんだかまだ眠そう。

「ごめん、なんだか俺たちテレビに映ってたみたいなんだ」

唐突に話し始められ、なんのことか分からなかったが、夏木くんの話を聞いた周囲が集まってきた。

「やっぱりあれってふたりだよね? テレビ見てて驚いたのよ」

みんなが口々に話し始める。
聞いているうちに、土曜日に行ったサッカーの試合のことだと気がついた。

「仲がいいなとは思ってたのよ」

「俺たち違いますから。たまたまチケットを同期の田代にもらったから行っただけですよ」

大きめの声で夏木くんが答えてくれるが、周囲は一緒にユニフォームを着て、さらにはふたりで一枚のブランケットをかけていたので何もないようには見えなかったようだ。

「隠さなくてもいいのよ。今どき職場恋愛はオープンなんだから」

周りの人たちも何故か付き合っているのが前提のような話をするので困ってしまう。

「本当に付き合ってないんです。ただの同期で同僚ですから」

何度も同じ説明を繰り返していると始業の時間になり、ようやく私たちの周りから人が離れていった。
はぁ、と大きなため息が漏れてしまう。それに気がついた夏木くんから、ごめん、と謝られたので慌てて、気にしないでと返した。
夏木くんが悪いことなんて何もない。
雰囲気を楽しもうとユニフォームを一緒に着て、寒いからってブランケットを貸してくれただけ。むしろ1人用じゃなくてごめんとあの場でも謝ってくれたくらい気の回る人だ。

「試合、楽しかったよ。だから全然気にしないで。本当に私たちなんでもないんだからさ」

いつもの調子で彼の肩をバシッと叩くと笑って自席に向かっていった。
お昼になっても何故か食堂で視線を感じる。
人気の試合だったのでテレビで見ていた人も多かったのだろう。
なんだか気まずくて、早々に席を立とうとしたところで管制官の松本さんが声をかけてきた。

「前田ちゃん、昨日のサッカーの試合見たよ。夏木くんと付き合ってるの?」

隣に座り、唐突な質問に驚いた。

「違いますよ。夏木くんは知っての通り、ただの同期です」

「良かったー。だったら俺にもまだチャンスはあるよね。近いうちに一緒にご飯でも食べに行かない? 最近見つけた美味しい海鮮料理の店があるんだ」

正直なところ今は疲れてしまい誰ともどこにも行く気が起きない。断る理由を考えていると、後ろから肩を叩かれた。

「悪いけど美花は忙しいから無理だ」

「え?」

聞き覚えのある声にドキッと胸が音を立てる。パッと振り返るとスーツを着こなし、髪をかき上げたたっくんが立っていた。
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