緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長
 そのせいで彼に対する心無い噂が跡を絶たないのだが、肝心の本人が気にしていないので、ヘルムフリートも静観するしかない状態だ。

「……そうか。俺にとってアンは特別な存在なのか……」

「え?! もしかして今気付いたの?!」

 思わずヘルムフリートが絶句する。ずっと色恋沙汰に疎い疎いと思ってはいたけれど、ここまで疎いとは思っていなかったのだ。

「ジギスヴァルトにもようやく──」

 ……春が来たのかと、遅い初恋を迎えた幼馴染に、声を掛けようとしたヘルムフリートは言葉を止める。
 何故なら、ジギスヴァルトの端正な顔は、耳まで真っ赤に染まっていたからだ。

 それは、「銀氷の騎士団長」と畏れられる英雄ジギスヴァルトの、誰も見たことがない年相応の姿だった。
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