緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長
 ジギスヴァルトがドアを開けると、ドアベルの乾いた音が鳴り響き、店員らしき少女が「いらっしゃいませ!」と元気よく出迎えてくれる。

 少女の花が咲くような笑顔を見た瞬間、今まで灰色に見えた世界が、鮮やかに色付いていく。

 ──それは、ジギスヴァルトが生まれて初めて経験する感覚であった。




(……今思えば、あの時の感覚はアンに一目惚れしたからだったのか)

 ヘルムフリートに指摘されたジギスヴァルトは、ようやく自分がアンを好きなのだと自覚することが出来た。
 今まで恋愛経験が無いからといって、気付くのが遅すぎだろうと自分でも思う。

 ──馬車から降りたジギスヴァルトは、グリフォン討伐の時よりも緊張した面持ちで、アンの店の扉を開いたのだった。
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