緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長
 婚儀までまだ半年以上あるけれど、環境が変わるのでここの温室のように花が育つかわからない。だから早めに検証する必要があるのだ。

(ジルさんのお屋敷……。伯爵様のお屋敷で免疫が付いただろうし、きっと無様な姿は見せない、はず……!)

 平民の私がお貴族様のお屋敷を尋ねることになるなんて……。半年前の自分だったら思いもしなかっただろう。

「では、次の水の日はどうだろうか? もし良ければ食事も一緒にできたら嬉しいのだが」

「えっ?! しょ、食事ですかっ?! いや、お世話になるのは私の方なのに、そんな…………っ! あ、はい! 是非!」

 ジルさんの申し出に、流石に申し訳なくて断ろうとした私がくるっと手のひらを返したのは、またジルさんがしょんぼりしそうだったからだ。

「あ、でもすみません。次の水の日はすでに約束があって……。その次の水の日でも良いですか?」

 次の水の日はヴェルナーさんのお姉様方に、プレッツヒェンを作って持っていく約束をしているのだ。

「うむ、構わない。ではその日を楽しみにしている」

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