緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長
「そうよ。ジギスヴァルト・リーデルシュタイン閣下よ。冷たい美貌の持ち主で令嬢たちにとても人気があるのだけれど……」

「王女殿下の恋人だって噂、結局違ったみたいね」

「ローエンシュタイン卿と王女殿下のご成婚が決まったし、今頃年頃の貴族令嬢から婚約の申込みが殺到しているでしょうね」

「……殺到……!」

 やっぱりジルさんはご令嬢方に大人気だった。あの美しい容姿だったらそりゃそうだよね、と納得する。

「でも彼が笑ったところを見た人間はいないらしいじゃない?」

「どんな美女が言い寄っても全く靡かないんでしょ?」

「令嬢からのエスコートの申込みも悉く断っているって聞いたわ」

「私は団員と令嬢の扱いが同じだって聞いてるわよ。女性でも容赦がない冷たい人ですって」

 お姉様方が聞いたという話は、いつもお店に来てくれるジルさんとは程遠い人物像だった。

 私が知るジルさんは、甘いものが好きで、気遣いが出来て、友達のために頑張れる人で……とにかく笑顔がとても素敵な優しい人なのに……。
 きっと勘違いしたお嬢様方から出た噂に、尾ひれがついてしまったのかもしれない。

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